角田 佳充 教授、西本 悦子 准教授、寺本 岳大 助教らの研究グループ(応用生命化学分野・生物物理化学研究室)が、免疫応答やHIV感染に関わるヒト細胞表面受容体CCR5の機能を調節する硫酸化修飾の仕組みを明らかにしました

2026.06.03 Life & Health

〜細胞表面受容体の機能を調節する「チロシン残基硫酸化」の仕組みを解明〜


ポイント

  • 免疫応答やHIV感染に関わるヒト細胞表面受容体CCR5は、特定のチロシン残基がタンパク質チロシン硫酸転移酵素hTPSTによって硫酸化修飾され、その機能が調節される。しかし、その分子機構は不明であった。
  • hTPSTとCCR5由来ペプチドの複合体の結晶構造を決定し、ゴルジ膜上で反応する分子メカニズムを明らかにした。
  • 本成果は、免疫応答やウイルス感染を制御する新たな手法への展開が期待されます。

概要

 九州大学大学院農学研究院の角田 佳充 教授、西本 悦子 准教授、寺本 岳大 助教、生物資源環境科学府の田中 槙之助氏、豊田 滉太氏、浅野 陽来氏(当時)らの研究グループ(生物物理化学研究室)は、宮崎大学との共同研究により、ヒトの細胞表面受容体CCR5が、タンパク質チロシン硫酸転移酵素hTPSTによって硫酸化翻訳後修飾される分子機構を明らかにしました。
 CCR5は、免疫応答に関わるケモカイン受容体であると同時に、HIVが細胞へ侵入する際に利用する重要な共受容体としても知られています。CCR5のN末端領域には複数のチロシン残基が存在し、これらが硫酸化されることで、ケモカインやウイルスタンパク質との相互作用が調節されます。しかし、CCR5の各チロシン残基がどのように硫酸化酵素に認識されるのか、その詳細な分子機構は十分に分かっていませんでした。
 本研究では、CCR5のN末端領域を模したペプチドとhTPST、硫酸基供与体の反応後産物であるPAPを含む複合体のX線結晶構造を決定しました。その結果、CCR5ペプチドのN末端側の3残基がhTPSTとの結合に重要であり、特にチロシン残基を硫酸化に適した位置へ配置する認識様式が明らかになりました。さらに研究グループは、得られた結晶構造をもとに、CCR5のY10、Y14、Y15が硫酸化される場合の構造モデル、および膜上に存在する全長CCR5とhTPSTの複合体モデルを構築しました。これらの解析から、hTPSTの基質結合ポケットが、疎水性相互作用と静電的相互作用を組み合わせることで、CCR5の複数のチロシン残基を認識し得ることが示されました。
 本成果は、CCR5のチロシン硫酸化がどのように起こるのかを原子レベルで理解するための重要な基盤となります。今後、CCR5をはじめとするケモカイン受容体の硫酸化制御機構の解明や、ウイルス感染、免疫応答、炎症反応に関わる分子認識の理解に貢献することが期待されます。
 本研究成果は、John Wiley&Sons社の学術雑誌「The FEBS Journal」に2026年5月22日に掲載されました。


参考図

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参考図1

ゴルジ体膜において、CCR5受容体(水色)に対して、2量体TPST(オレンジ色と赤色)がPAPS(黄色)を使って硫酸化修飾している様子

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参考図2

(左)hTPSTによるCCR5のチロシン残基硫酸化の構造モデル。hTPST二量体をオレンジ色および赤色、CCR5受容体を水色、膜模倣分子を緑色で示した。PAPは黄色の球モデル、CCR5の硫酸化を受けるチロシン残基は水色の球状モデルで示している。
(右)複合体の活性中心拡大図。CCR5 N末端領域のチロシン残基がhTPSTの基質結合ポケットに収容され、PAPの近傍に配置されている。


用語解説

※hTPST
human tyrosylprotein sulfotransferaseの略称。ヒトのゴルジ体内腔でタンパク質のチロシン残基を硫酸化する酵素です。

※PAPS / PAP
PAPSは硫酸基の供与体、PAPは硫酸基転移後に生じる反応産物です。本研究では、hTPST、PAP、CCR5ペプチドの複合体構造を解析しました。

※X線結晶構造解析
タンパク質などの結晶にX線を照射し、得られた回折データから原子レベルの立体構造を決定する手法です。


謝辞

本研究はJSPS科研費 (21K05384, 22H02262, 24K09353, 25H01276)および松籟科学技術振興財団の助成の支援を受けたものです。


論文情報

掲載誌:The FEBS Journal
タイトル:Structural insights into tyrosine sulfation of CCR5 by human tyrosylprotein sulfotransferase-1
著者名:Shinnosuke Tanaka, Hirai Asano, Kota Toyoda, Toshiaki Nishiyori, Hidetaka Kojo, Kazuto Kiyomatsu, Katsuhisa Kurogi, Yoichi Sakakibara, Etsuko Nishimoto, Takamasa Teramoto, Yoshimitsu Kakuta*
*corresponding author
DOI:https://doi.org/10.1111/febs.70597


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寺本 岳大 助教
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角田 佳充 教授
応用生命化学分野・生物物理化学研究室