大嶋 雄治 名誉教授らの研究グループが、プラスチック汚染が海辺の掃除屋フナムシに及ぶ影響を明らかにしました

2026.08.24 Environment & Sustainability

~消化管のマルチオミクス解析に基づく推察~


ポイント

  • 甲殻類の一つであるフナムシ(※1)は雑食性であり、「海辺の掃除屋」であることが知られています。
  • 本研究によって、マイクロプラスチックをフナムシに摂食させると、消化器系における遺伝子発現レベルで、薬物系の代謝経路などが活性化する傾向があることが示されました。
  • さらに、消化管の微生物叢の多様性の全体像は変化が少ないものの、部分的にメタン生成に関与する古細菌(※2)群や一部のDNAウイルスの存在比率が高まる傾向が示されました。
  • このことから、プラスチック汚染(※3)の評価として、海辺の生態系において消化器系の変容を捉える観点が必要であり、将来的に海洋生態系の保全のための介入方法に対する処方箋のヒントになることが期待されます。

概要

 九州大学大学院生物資源環境科学府の大学院生 Seokhyun Lee (筆頭著者・当時)、大学院農学研究院 大嶋 雄治 名誉教授、島崎 洋平 准教授、高井 優生 助教らは、理化学研究所生命医科学研究センターの大野 博司 チームディレクター、須田 亙 チームディレクター、宮本 浩邦 客員主管研究員らとともに、プラスチック汚染に対するモデル試験系において、消化器系に生理的な変化が生じうることを確認しました。
 西日本の海岸に生息するフナムシ(Ligia spp.)は、発泡ポリスチレン(EPS)を摂取し、マイクロプラスチックとして糞中に排出しますが、消化器系への影響は十分に分かっていませんでした。本研究では、室内曝露実験により、EPSを与えたフナムシと絶食させた対照群の腸を比較し、遺伝子発現と腸内微生物叢をマルチオミクス解析によって調べました。その結果、EPS摂取群では、異物代謝に関わる酵素(シトクロムP450、UDP-グルクロン酸転移酵素、スルホトランスフェラーゼ)の遺伝子発現が上昇していました。一方、腸内微生物叢の全体構造には変化がないものの、Methanospirillumなど一部のメタン生成古細菌やウイルスが、EPS群でのみ検出されました。本研究は、マイクロプラスチックによる海洋生態系への影響を改めて多面的に理解する必要性があることを示しています。
 本研究成果は、2026年7月31日に海洋環境科学および海洋汚染分野の伝統的な学術誌である「Marine Pollution Bulletin」<1970年創刊> (Q1カテゴリー上位5%ランク)に掲載されました。


図 1 本研究の概念図

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一般的に、フナムシは、海辺の「掃除役」として生態系の保全に関わっています。一方、近年、プラスチック汚染を伴う海辺には、割れて小さくなった発泡スチロール(EPS)などのマイクロプラスチックが打ち上げられています。本研究では、EPSを摂取したフナムシの消化管で何が起きるかを、マルチオミクス解析によって調べました。その結果、環境負荷に対する応答として、異物代謝系(第I相・第II相の酵素)の活性化が見られ、共生微生物叢では、α/β多様性に変化はなく、群集全体の構造は保たれていましたが、メタン生成古細菌やウイルスが検出されることが明らかになりました。


用語解説

(※1)フナムシ
海辺の岩場や堤防でよく見かける、小さな生き物。名前に「ムシ」とつくが昆虫ではなく、エビやカニと同じ甲殻類の仲間。落ち葉や生き物の死がいなどを食べる「海辺の掃除役」で、岩礁海岸の生態系を支えている。

(※2)古細菌(こさいきん)
細菌とは異なる、もう一つの微生物のグループ。見た目は細菌に似ているが、進化のうえでは別の系統で、温泉や深海、動物の腸内など、さまざまな環境にすんでいる。今回登場した「メタン生成古細菌」は、そのなかでもメタンをつくる働きをもつ仲間。

(※3) プラスチック汚染
プラスチックごみが自然環境に流れ出し、たまってしまう問題。とくに5mm以下の細かい破片は「マイクロプラスチック」と呼ばれ、海や川、さらには生き物の体の中からも見つかっている。プラスチックは自然には分解されにくく、長い間環境に残り続ける。


論文情報

掲載誌:Marine Pollution Bulletin
タイトル:Changes in dysbiosis and gene expression in the gut of wharf roach (Ligia spp.) fed with expanded polystyrene
著者名:Seokhyun Lee, Hirokuni Miyamoto, Yuki Takai, Wataru Suda, Hiroshi Ohno, Yohei Shimasaki, Yuji Oshima*
DOI:10.1016/j.marpolbul.2026.120200


お問合せ先

大嶋 雄治 名誉教授・学術特任教員
島崎 洋平 准教授
高井 優生 助教