椿 俊太郎 准教授らの研究グループが、マイクロ波の電磁場の空間分離によりバイオマスを「超」急速熱分解する技術を開発しました。

2024.10.28 Environment & Sustainability

~リグノセルロースや食品廃棄物など有機資源の利活用に貢献~

ポイント

  • カーボンニュートラル社会の実現に向けてバイオマスなどの有機資源の有効利用が望まれる
  • 電場 磁場分離したマイクロ波*1 を用いたバイオマスの「超」急速熱分解反応を開発
  • リグノセルロースや食品廃棄物などの有機炭素資源の有効活用に貢献

概要

 林地残材や農業残滓などのリグノセルロースや、食品廃棄物といった地域の未利用バイオマス資源は、バイオマス発電燃料や機能性材料として利用の促進が期待されます。バイオマスに由来する炭素材料(バイオチャー)は、炭素を固体として長期間にわたり貯蔵することが可能であり、脱炭素化に貢献することができます。
 九州大学の椿俊太郎 准教授、東北大学の福島潤 助教、産業技術総合研究所の山口有朋 研究部門長、みなも株式会社の西岡将輝 博士、東京工業大学(現 東京科学大学)の和田雄二 名誉教授の研究グループは、マイクロ波の電場加熱と磁場加熱の空間的な分離により、効率的にバイオマスを「超」急速熱分解する技術を開発しました。本方法では、半導体式マイクロ波発振器*2 と電場・磁場分離型の空洞共振器を用いて、マイクロ波の電場と磁場を分離することで、熱分解反応中のバイオマスの効率的な加熱を実現しました。バイオマスは熱分解によって炭素化が進むと、誘電体から導体に変化するため、マイクロ波の吸収特性が著しく変化します。炭素化したバイオマスはマイクロ波を反射してプラズマが発生してしまうため、マイクロ波の電場による誘電加熱*3 では効率的な加熱が困難でした。そこで、マイクロ波磁場による誘導加熱*4 を組み合わせることで、炭素化の進んだバイオマスでも効率的にマイクロ波加熱することができるようになりました。さらに、915 MHz を用いた空洞共振器の大型化や、2.45 GHz のフロー式の磁場加熱装置を開発し、高効率化を達成しました。
 本研究成果はElsevier の「Chemical Engineering Journal 」誌に2024 年9月28 日(土)(日本時間)にオンライン掲載されました。


研究者のコメント

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マイクロ波電場による急速熱分解と、マイクロ波磁場によるバイオチャーの急速加熱の概念図

家庭用の電子レンジにも用いられるマイクロ波加熱は、物質を効率的かつ高速に加熱できます。特に炭素材料はマイクロ波によって極めて高速で加熱されることが知られていますが、加熱中にプラズマが生じることが課題です。そこで、IH 調理にも用いられる磁場を用いた誘導加熱を組み合わせることで、プラズマの形成を抑えてバイオチャーを効率的に加熱すること、さらに、連続式の磁場加熱に成功しました。


用語解説

*1 マイクロ波
周波数が300 MHz~30 GHzの電磁波の一種で、通信(携帯電話、WiFiなど)やレーダーとして広く利用される。2.45 GHzや5.8 GHz の特定の周波数は、家庭用電子レンジや産業用加熱装置としても利用される。スケールにアップには波長の長い915 MHzが有効であるが。さらに低い周波数(300 MHz以下)は高周波とも呼ばれる。

*2 半導体式マイクロ波発振器
従来の電子レンジは真空管(マグネトロン)式であり、位相や周波数、出力が経時的に変化しやすい。一方、半導体式マイクロ波発振器ではこれらを精密に制御することができ、これによって従来の電子レンジでは困難な、繊細なマイクロ波加熱制御が可能となった。さらに、近年、高出力の半導体によるマイクロ波加熱装置が普及しつつある。

*3 誘電加熱
マイクロ波や高周波の電場によって、水などの双極子の回転緩和に伴って発熱が生じる現象。

*4 誘導加熱
金属や炭素などの導体に磁場を与え、表面に生じる渦電流を生じ、ジュール加熱が生じる現象。


論文情報

掲載誌:Chemical Engineering Journal
タイトル:Process intensification of the ultra-rapid pyrolysis of bamboo by spatially separated microwave electric and magnetic fields
著者名:Shuntaro Tsubaki, Jun Fukushima, Aritomo Yamaguchi, Masateru Nishioka, Yuji Wada
DOI:10.1016/j.cej.2024.156260


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