丸山 明子 教授らの研究グループ(応用生命化学分野・植物栄養生理学研究室)が、植物の根で有用遺伝子を高発現させる新しいシステムを開発しました。

2026.05.15 Technology

〜硫酸イオン輸送体の遺伝子下流域を利用してアントシアニン蓄積と成長促進に成功〜


ポイント

  • 基礎研究や農作物の有用な形質強化において、特定の組織で遺伝子を強く働かせる技術が求められている。
  • 硫酸イオン輸送体の一つ、SULTR2;1※1遺伝子の3'下流域を利用し、硫黄欠乏条件下におかれた根で遺伝子発現を促す新システムを構築した。
  • 本システムでアントシアニン生合成を促進する転写因子PAP1の遺伝子を導入した結果、根でアントシアニンが蓄積し、植物の成長促進と塩ストレス耐性の向上が確認された。

概要

農業や植物科学の分野において、環境ストレス耐性や栄養価の向上といった有用な形質を付与するために、特定の組織で目的の遺伝子を高発現させる技術が活用されています。しかし、従来のように遺伝子の5'上流域を改変する手法では、遺伝子が本来持つ発現の特性(いつ・どこで働くか)が失われてしまうという課題がありました。

九州大学大学院農学研究院の丸山 明子 教授らの研究グループは、硫酸イオン輸送体であるSULTR2;1の遺伝子下流域に着目しました。この領域は、植物が硫黄欠乏状態(−S)に置かれた際、元のプロモーター配列に依存することなく、根における遺伝子発現を高める性質を持っています。今回、この特性を利用し、アントシアニン生合成を促進する転写因子であるPAP1を用いた新しい発現調節システムを構築しました。

モデル植物であるシロイヌナズナにこのシステムを導入し、硫黄欠乏条件下で栽培したところ、根においてPAP1遺伝子の発現が顕著に増加し、目視で確認できるほど根が赤紫色に変化する(アントシアニンが蓄積する)ことが明らかになりました。さらに、アントシアニンが持つ抗酸化作用により、硫黄の供給量に関わらず植物全体のバイオマス(生体重)や成長が促進されるとともに、種子の収量も増加する傾向が確認されました。また、塩害などの環境ストレス耐性が向上し、良好な成長を維持できることが示されました。

本研究成果は、根で機能するさまざまな有用遺伝子の発現調整に応用できる画期的なシステムであり、根菜類の栄養価向上や環境ストレスに強い作物の開発など、次世代の農業技術への応用が期待されます。

本研究成果は学術雑誌「Plant Molecular Biology」にて公開されました。

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図1. PAP1遺伝子とSULTR2;1 3'下流域を組み合わせて発現させた植物
左上)導入した遺伝子
左下)硫黄不足で育てた形質転換植物(14-8)の根ではアントシアニンが蓄積する。Colは野生型株。
右上)植物を硫黄不足, 50 mM NaCl条件で育てた時の種子収量。13-3, 14-8は形質転換植物。
右下)植物の生重量。


研究者からひとこと

本研究を通して、植物の根における遺伝子の潜在的な機能を効果的に引き出す新たな発現システムを提示することができました。本システムは、遺伝子の本来の特性を維持したまま根での発現を強化できるため、様々な有用作物の改良や、環境ストレスに強い植物の開発などに幅広く活用されると期待しています。


用語解説

(※1)SULTR2;1
植物の根の木部柔細胞や内鞘細胞などで発現し、根から地上部への硫酸イオンの輸送を促進する低親和型の硫酸イオン輸送体。

(※2)PAP1
アントシアニン生合成の転写活性化因子(MYB75とも呼ばれる)。植物体内で後期アントシアニン生合成遺伝子の転写を活性化する役割を持つ。

(※3)アントシアニン
フラボノイドの一種で、植物に赤や紫色の色素をもたらす物質。抗酸化作用を持ち、高塩濃度や酸化、低温などのストレスに対する耐性を高める働きがある。

(※4)3'下流域
遺伝子のコード領域の後ろ(下流)に位置する配列。SULTR2;1遺伝子の3'下流域には、硫黄欠乏に応答して根での発現を増加させる特有の制御配列が含まれている。


論文情報

掲載誌: Plant Molecular Biology
タイトル: Increased anthocyanin accumulation and plant growth by driving PAP1 expression using the 3′downstream region of the sulfate transporter SULTR2;1 gene
著者名: Nguyen Ha Trang, Abdul wakilu Sulemana, Moeka Fujita, Li Hongqiao, Chihiro Ohtaki, Akiko Suyama, Akiko Maruyama-Nakashita
DOI: 10.1007/s11103-025-01676-5


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