髙橋 秀之 准教授らの研究グループが、家畜の繁殖効率に影響する腸内細菌叢を予測

2025.04.11 Physics & Chemistry

ー 繁殖成績に負の影響を与える因果構造の計算科学的検証 ー


ポイント

  • 腸内細菌叢と繁殖成績との関係性については、近年注目されている研究テーマです。
  • 産業動物である牛において、機械学習(※1)および因果推論(※2)の結果、Erysipelotrichaceae科とClostridium sensu stricto 1属、Family XIII AD3011 group属、クレアチニン分解経路(PWY-4722)が人工授精回数の増加に影響する可能性が示されました。
  • さらに、人工授精の5か月以上前の細菌叢から、将来の人工授精回数を予測できる可能性が推定されました。

概要

九州大学大学院農学研究院の田口佑充大学院生(研究当時)、山野晴樹大学院生(共同筆頭著者)、髙橋秀之准教授らは、理化学研究所生命医科学研究センターの宮本浩邦客員主管研究員、大野 博司チームディレクター、理化学研究所環境資源科学研究センターの菊地 淳チームディレクター、黒谷 篤之 研究員(研究当時)(現・農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)農業情報研究センター)、理化学研究所光量子工学研究センター光量子制御技術開発研究チームの守屋繁春専任研究員、和田智之チームディレクターとの産学共同研究(みらいグローバルファーム(株)、伊藤ハム(株)、日本農産工業(株)、日環科学(株)、千葉大発ベンチャー(株)サーマス・京葉ガスエナジーソリューション(株))によって、黒毛和種繁殖メス牛の繁殖成績と腸内細菌群の因果構造を計算科学的手法で評価し、腸内細菌叢から将来の繁殖成績を予測することが可能であることを示しました。

腸内細菌叢と繁殖成績との関係性は近年着目されている研究テーマであり、ヒトやマウスでは腸内細菌叢の乱れが肥満や免疫系の異常を介して生殖系に悪影響を及ぼすことが知られています。一方で産業動物である牛では妊娠前の腸内細菌叢と繁殖成績の関係性については完全には解明されていません。

そこで本研究では、黒毛和種未経産メス牛を供試し、妊娠に要した人工授精回数が少なかった群と多かった群において、150日齢(人工授精の5か月以上前)と300日齢(人工授精前)における糞中細菌叢を網羅的に解析しました。その結果、人工授精直前の300日齢よりも人工授精の5か月以上前である150日齢におけるErysipelotrichaceae科とClostridium sensu stricto1属、Family XIII AD3011 group属が人工授精回数の増加(受胎の遅れ)に影響する可能性が示されました。また、糞便細菌叢のデータから代謝経路を予測するPathway解析(※3)によってクレアチニンを分解する経路であるPWY-4722が人工授精回数の増加に影響することも150日齢で示されました。併せて、90日齢までの短い投与期間における好熱菌プロバイオティクスの影響についても評価し、150日齢の診断の重要性が計算科学的に示されました。

以上の結果から、肉牛生産において極めて重要な人工授精の回数は、人工授精直前ではなく、その5か月以上前の糞中細菌叢から推測できる可能性が示されました。

本研究成果は、2025年3月28日(金)にSpringer Natureの「Animal Microbiome」誌(Scopusの獣医学分野の評価で2位にランクされる学術誌)に掲載されました。


用語解説

(※1) 機械学習
データから学習して、一定のパターンやルールを自動で発見するコンピュータアルゴリズム。教師なし機械学習と教師あり機械学習に分類される。本研究では特徴的な因子の抽出に用いている。

(※2) 因果推論
実験・観察データから得られた情報を基に、データ間の因果効果を統計的に推定していく方法。

(※3) Pathway解析
細菌の16S RNA配列データから、細菌の代謝経路を予測する解析手法。


論文情報

掲載誌:Animal Microbiome
タイトル:Causal estimation of the relationship between reproductive performance and the fecal bacteriome in cattle
著者名:Yutaka Taguchi, Haruki Yamano, Yudai Inabu, Hirokuni Miyamoto, Koki Hayasaki, Noriyuki Maeda, Yoshiro Kanmera, Seiji Yamasaki, Noboru Ota, Kenji Mukawa, Atsushi Kurotani, Shigeharu Moriya, Teruno Nakaguma, Chitose Ishii, Makiko Matsuura, Tetsuji Etoh, Yuji Shiotsuka, Ryoichi Fujino, Motoaki Udagawa, Satoshi Wada, Jun Kikuchi, Hiroshi Ohno, Hideyuki Takahashi
DOI:10.1186/s42523-025-00396-x


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髙橋 秀之 准教授