池上 啓介 准教授らの研究グループが、ヒトもマウスも夜に眼圧が上がる理由を解明しました。

2026.07.08 Math & Data

2つのホルモンの「波」の重なりが緑内障リスクに関係する概日リズムを生み出す


ポイント

  • ヒトとマウスで活動時間が逆なのに、どちらも夜に眼圧が上昇する謎に挑戦
  • 2つのホルモンの日内変動を組み合わせたシンプルな数理モデルを構築
  • 種差だけでなく加齢による眼圧リズム変化も説明
  • 緑内障の時間医療や個別化医療への応用に期待

概要

 眼圧は緑内障(※1)の最大の危険因子であり、1日の中で大きく変動することが知られています。しかし、昼に活動するヒトと夜に活動するマウスでは生活リズムが正反対であるにもかかわらず、どちらも夜間に眼圧が高くなることが知られており、その仕組みは長年不明でした。また、加齢に伴い眼圧リズムが変化することも知られていましたが、これらを統一的に説明できる理論は存在していませんでした。
 九州大学大学院農学研究院の池上 啓介 准教授らの研究グループは、眼圧の日内変動(※2)が、副腎から分泌されるグルココルチコイド(※3)と交感神経から放出されるノルアドレナリン(※4)という2つの生体シグナルの重なりによって生じることを説明する新たな数理モデルを提唱しました。
 研究グループは、これまでに明らかにしてきた眼圧リズムに対するグルココルチコイドおよび交感神経の作用に着目し、ヒトや実験動物の既報データの解析、若齢および高齢マウスの眼圧測定、交感神経切除実験などを行いました。その結果、2つのシグナルの時間的な「波」の重なりによって、ヒトとマウスの眼圧リズムの違いや加齢による変化を統一的に説明できることを明らかにしました。
 今回の成果は、眼圧の日内変動を理解する新たな理論的基盤を提供するものです。将来的には、個々の患者の眼圧変動を予測する診断法や、薬剤投与の最適な時間帯を決定する「時間医療(クロノセラピー)」の開発につながることが期待されます。
 本研究成果は、Springer Natureが刊行する国際学術誌「npj Biological Timing and Sleep」に2026年7月6日(月)(日本時間午後6時)に掲載されました。


図1 2つの因子の「波」の和による眼圧変動

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昼行性と夜行性では眼圧ピークが6時間異なる。

研究者からひとこと

これまで私たちは、グルココルチコイドと交感神経がそれぞれ眼圧の日内変動に関与することを明らかにしてきました。本研究では、それらを1つの枠組みとして統合することで、ヒトとマウスの違いや加齢による変化を説明できることを示しました。眼圧リズム研究をさらに発展させ、緑内障の新しい診断や治療法につなげたいと考えています。(池上啓介)


用語解説

(※1)緑内障
視神経が障害されることで視野が徐々に失われる病気。世界の失明原因の上位を占め、眼圧上昇が最大の危険因子として知られている。

(※2)日内変動
体温や血圧、ホルモン分泌などの生理機能は、1日の中で規則的に変化しています。このような24時間周期の変化を「日内変動」と呼びます。日内変動は体内時計によって制御されており、生体が昼夜の環境変化に適応するための基本的な仕組みと考えられています。

(※3)グルココルチコイド
副腎から分泌されるホルモンの総称で、代表的なものにコルチゾール(ヒト)やコルチコステロン(マウス)がある。ストレス応答や代謝調節に重要な役割を担うほか、体内時計の情報を全身の組織へ伝えるシグナルとしても働く。本研究では、眼圧の日内変動を形成する要因の1つとして着目した。

(※4)ノルアドレナリン
交感神経から放出される神経伝達物質で、血圧や心拍数の調節、覚醒状態の維持などに関与する。本研究では、眼に分布する交感神経から放出されるノルアドレナリンが、眼圧の日内変動を調節する重要なシグナルとして機能することを示した。


論文情報

掲載誌:npj Biological Timing and Sleep
タイトル:Additive framework of hormonal waves accounts for species and age differences in circadian intraocular pressure rhythm
著者名:Keisuke Ikegami, Ryo Fujie, Fumito Mori, Shinobu Yasuo
DOI:10.1038/s44323-026-00096-y


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池上 啓介 准教授