久米 篤 教授らの研究グループが、コケの胞子が宇宙でも生き延びることを世界で初めて実証しました。

2025.11.27 Life & Health

〜持続可能な宇宙居住への第一歩〜


ポイント

  • 宇宙でも生き延びたコケ:国際宇宙ステーション(ISS)船外で9か月間の曝露後も生存を確認。
  • 極限環境耐性の鍵は「胞子」:紫外線、極低温、真空下でも胞子の高い生存率を確認。
  • 月・火星での生態系構築に貢献:植物生産や生命維持技術への応用に期待。

概要

北海道大学大学院生命科学院のメンチャンヒョン 博士研究員、同大学大学院理学研究院の藤田 知道 教授、宮城大学の日渡 祐二 教授、中村 恵太 博士課程学生、九州大学の松田 修 助教、久米 篤 教授、福岡工業大学の三田 肇 教授、筑波大学生命環境系の富田・横谷 香織 講師(研究当時)、東京薬科大学の横堀 伸一 准教授、山岸 明彦 名誉教授からなる研究グループは、モデルコケ植物「ヒメツリガネゴケ」の胞子(種子植物の「種子」に相当する生殖構造体)が実際の宇宙空間で長期間生存できることを世界で初めて実証しました。

国際宇宙ステーション(ISS)の「きぼう」日本実験棟に設置された船外実験装置を用いてヒメツリガネゴケの胞子を含む胞子体(sporophyte)*1を約9か月間宇宙空間に曝露しました。地上に回収後、発芽試験を行った結果、80%以上の胞子が正常に発芽することが明らかになりました。

これは、コケ植物の胞子が実際の宇宙環境で生存し得ることを示した世界初の報告であり、今後、持続可能な宇宙生態系の構築や生物を利用した生命維持システム(BLSS:Bioregenerative Life Support System)*2の開発に向けた新たな可能性を拓くものと期待されます。

なお、本研究成果は、日本時間2025年11月21日(金)公開のiScience誌(セル・プレス刊行)にオンライン掲載されました。


用語解説

*1 胞子体(sporophyte)
コケ植物の生活環のうち、受精後に形成される二倍体(2n)の世代。茎の先端に形成される蒴(さく、sporangium)の中に減数分裂により作られた多数の胞子(一倍体=1n)を含み、成熟すると胞子を放出して次の世代を生じる。今回の研究では、この胞子体をまるごと宇宙空間に曝露して耐性を調べた。

*2 BLSS(Bioregenerative Life Support System)
生物再生型生命維持システムのこと。植物や微生物など生物の働きを利用して、酸素の供給、二酸化炭素の除去、水や栄養の再生、食料の生産を行う閉鎖循環型の生命維持装置。宇宙船や月・火星基地などでの長期滞在を可能にする基盤技術として注目されている。

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左:ヒメツリガネゴケ(Physcomitrium patens)の茎葉体が多数生育している様子。このコケの茎葉体は成長しても数ミリから1センチ程度の高さであり小型だが、極限環境への高い適応力を持ち、植物進化の研究におけるモデル生物としても利用されている。
右:1本の茎葉体の上部中央に赤褐色の丸い蒴(胞子 嚢)が見える。この蒴の内部に多数の胞子が含まれている。茎葉体から成熟した蒴を一つずつ集めて胞子体サンプルとし、国際宇宙ステーションの曝露部において宇宙曝露実験を実施した。
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左:国際宇宙ステーション(ISS)船外実験プラットフォーム(中型曝露実験アダプタ、i-SEEP)に設置された曝露実験ブラケット(ExBAS)。一番上に、「たんぽぽ」実験の曝露パネルが格納された。
右:宇宙飛行士により、ISS内で「たんぽぽ」実験の曝露パネルがExBASに取り付けられた。曝露パネルには、七つの曝露ユニットにヒメツリガネゴケの胞子体を含む多様な試料が収められている。本研究ではこの装置を用いて、約9か月間宇宙空間に曝露した。(提供:JAXA/NASA)

論文情報

論文名:Extreme Environmental Tolerance and Space Survivability of the Moss, Physcomitrium patens(ヒメツリガネゴケの極限環境耐性と宇宙空間での生存性)
著者名:Chang-hyun Maeng1、日渡祐二2、中村恵太3、松田 修4、三田 肇5、富田・横谷香織6、横堀伸一7、山岸明彦7、久米 篤8、藤田知道9(1 北海道大学大学院生命科学院、2 宮城大学食産業学群、3 宮城大学大学院食産業学研究科、4 九州大学大学院理学研究院、5 福岡工業大学生命環境化学科、6 筑波大学生命環境系、7 東京薬科大学生命科学部、8 九州大学大学院農学硏究院、9 北海道大学大学院理学研究院)
雑誌名:iScience(セル・プレス刊行の学際科学誌)
DOI:10.1016/j.isci.2025.113827


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久米 篤 教授