田代 幸寛 准教授らの研究グループが、ヒト頭髪から細菌を分離し特異な炭素資化性を発見しました。
細菌は毛髪で皮脂や汗だけでなくヘアケア剤も栄養として利用し定住する。 毛髪化粧品開発に期待
ポイント
- 近年、人の頭髪表面には常在菌(※1)(毛髪細菌)が存在することが報告されましたが、毛髪は乾燥および貧栄養な環境であるため細菌が棲息に利用する栄養源は不明でした。
- 毛髪からの細菌分離を世界で初めて行い、標準株(※2)と分離株の比較により好脂性や皮脂およびヘアケア剤に含まれる炭素源の資化性を分離菌独自で示す株を同定しました。
- 毛髪細菌は毛根内部でヒト表皮細胞との接触により細胞の抗老化や延命に関わる遺伝子発現制御に影響を及ぼすことが報告されています。これまで評価には標準株が使用されていましたが本研究の毛髪分離菌を利用することで、よりクリアな毛髪細菌とヒトとの関係性の解明が期待されます。
概要
人体と微生物の共生関係解明は生命活動機構を紐解く重要な要素の一つです。近年、DNAを用いた解析法により、ヒト毛髪表面で常在菌が発見され細菌叢や定着様式が解明されました。一方で、栄養源は情報が乏しく頭皮からの皮脂や汗の供給が毛髪細菌の棲息に重要であることが示唆されていましたが、定量的な炭素資化性の評価は分離菌を用いる必要があるため不明とされていました。
九州大学大学院農学研究院の田代幸寛准教授、大城麦人助教、酒井謙二名誉教授、山田あずさ特別研究員、西悠里大学院生(当時)、野口芽生大学院生ならびに東京農業大学応用生物科学部の渡邉康太助教らの研究グループは、毛髪からの細菌分離法確立により24培養条件から27属63種の分離菌を獲得し、一部の毛髪細菌が貧栄養および脂質添加条件により生育促進を示しました。さらに、汗含有のグルコースや皮脂含有のグリセロールおよび広範なヘアケア剤含有のマンニトールの資化性を示すことを初めて詳細に明らかにしました。特に優占な毛髪細菌Cutibacterium acnes subsp. defendensおよびC. acnes subsp. acnes毛髪分離株は標準株で資化性の無いマンニトールの資化性を有することから、毛髪環境で棲息有利な資化性を獲得した可能性が示唆されます。
今回の研究成果は宿主から毛髪細菌へ栄養供給の証拠を見出しました。さらに獲得した分離株をヒト毛根への作用分析に用いることで毛髪細菌とヒトとの関係性解明に応用でき、将来的には細菌叢を考慮した毛髪化粧品開発に期待されます。
本研究成果は、2024年7月21日に日本の英文誌「Journal of Bioscience and Bioengineering」にオンライン掲載されました。
研究者からひとこと
毛髪は人類にとって直接生命に関わる部位ではありませんが、個人の印象や他者とのコミュニケーションを助長する重要な役割を果たします。毛髪分野は多くの人の関心が高い一方で、毛髪×微生物学の研究は発展段階であり未解明なことが多い分野です。乳酸菌の研究から腸内環境を気遣う考えが一般化したように、ヘアケア時に毛髪微生物を気遣う人が増えるよう今後も研究を発展させたいと思います。
用語解説
(※1) 常在菌
ヒトの身体に存在する微生物(細菌)のうち、年間を通して安定して万人に共通し存在し著しい病原性を示さないものを指す。
(※2) 標準株
その生物種を新種記載する際の拠り所となった細菌株であり、純粋培養された生菌株を指す。
論文情報
掲載誌:Journal of Bioscience and Bioengineering
タイトル:Isolated hair bacteria reveal different isolation possibilities under various conditions
著者名:Azusa Yamada, Yuri Nishi, Mei Noguchi, Kota Watanabe, Mugihito Oshiro, Kenji Sakai and Yukihiro Tashiro
DOI:10.1016/j.jbiosc.2024.06.003
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