アリと暮らす昆虫、日本産ヒラタアリヤドリの多様性を解明
好蟻性昆虫の共生関係の進化研究へ前進
ポイント
- アリのコロニーで生活するハネカクシ科甲虫の一群として知られているヒラタアリヤドリ属(Homoeusa)について、全国各地で収集した2,000個体以上の標本をもとに分類学的研究を行い、日本には3新種を含む合計9種のヒラタアリヤドリ属が生息していることが判明した。(写真:左)
- ヒラタアリヤドリ属で初めてアメイロケアリ種群を利用する種を正式に記録し、新種として記載した。
- アリに対する行動の「親密度」が種ごとに大きく異なることが観察により判明した。
- 得られた詳細な分類・生態情報を基盤として、寄主アリ(写真:右)との関係性がどのようなパターンで進化してきたのかをDNA解析により検証する研究を開始しており、好蟻性昆虫のみならず、生物学の一般原理の解明にもつながると期待される。
アリヅカコオロギ、シジミチョウの幼虫など、アリの巣にはさまざま生物が共生しており、その現象を好蟻性(※1)といいます。とくにハネカクシ科の甲虫に好蟻性の種が多く、ヒラタアリヤドリ属はケアリ属(Lasius)のコロニーで生活する好蟻性ハネカクシの一群です。アリとの関係の複雑さから、進化史研究の材料として魅力的ですが、体長が2~3 mmと小型で外見が似ていることから、種の識別は困難で、日本の好蟻性生物のなかでもとくに研究が遅れている一群でした。九州大学大学院生物資源環境科学府博士課程3年の野崎 翼 氏と、九州大学総合研究博物館(同学府兼任)の丸山 宗利 准教授の研究チームは、これまでに両名および昆虫愛好家・研究者の方々が全国各地で採集してきた標本(九州大学総合研究博物館の所蔵)に、国内外の研究機関に所蔵されている標本を加えた、合計2,000個体以上の標本を詳細に調査しました。その結果、日本には9種のヒラタアリヤドリ属が生息し、そのうち3種は新種であることが判明しました。なかでも、ヒラタアリヤドリ属で初めてアメイロケアリ種群を利用する種を正式に記録し、新種として記載しました。あわせて野外や室内で行動観察したところ、種によって寄主アリに対して様々な反応を示すことがわかりました。研究チームは本研究を土台として、DNA解析の手法を用いて、長い歴史の中で寄主アリとの関係性がどのようなパターンで進化してきたのかを解明する研究を開始しています。今後の展開によって、様々な生物の進化研究に波及することが期待されます。九州大学総合研究博物館にはアジア最大の好蟻性昆虫のコレクションがあり、まだ多数の種を含んでいます。今後も研究と教育に活用の予定です。
本研究成果はドイツの雑誌「Deutsche Entomologische Zeitschrift」に2025年12月3日(水)に掲載されました。
用語解説
(※1) 好蟻性
説明・・・広義にはアリのコロニーを利用する性質のことで、より狭義にはアリのコロニーがなければ成り立たない生活史を持つことを指す。特にハネカクシ科では他の昆虫に比べて多くの好蟻性種が知られている。
共著者(指導教員)の丸山より一言
この研究課題は、遡ること25年前、丸山が大学院時代に着手したものでした。しかし本分類群は極めて難しく、長年にわたり大量に集めた標本が、研究として形になることがありませんでした。野崎君は学部時代から私の研究室に出入りしており、その優れた研究センスと鋭い観察眼を高く評価していました。きっと良い研究をしてくれると確信し、この材料を託したところ、彼自身も全国各地を回って追加標本を収集し、最終的に今回のような大きな成果としてまとめ上げてくれました。現在、彼はこのグループの進化史の解明に取り組んでおり、実はこれこそが本研究の核心部分でもあります。その成果も近いうちに発表される予定ですので、ぜひご期待ください。
論文情報
掲載誌:Deutsche Entomologische Zeitschrift
タイトル:Taxonomy of Homoeusa Kraatz, 1856 (Coleoptera, Staphylinidae,Aleocharinae) from the East Palearctic: II. Revision of Japanese species
【邦訳:旧北区におけるヒラタアリヤドリ属の分類学II.日本産種の分類学的再検討】
著者名:野崎 翼・丸山 宗利
DOI:10.3897/dez.72.158689
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