片山助教らの研究グループが九州山地で起きている土壌侵食による土壌微生物相の変化を明らかにしました。

2023.10.21 Environment & Sustainability


ポイント

  • 土壌微生物の群集組成を網羅的に解析した結果、九州山地で起きている土壌侵食が土壌中の微生物相を変化させていることがわかった
  • 土壌侵食による微生物相の変化は、植物が定着しづらいような方向性になっており、今後さらに侵食が起きるような環境になっていることがわかった
  • 本研究成果は、下層植生が消失した森林における土壌侵食についての生態系メカニズムの理解を促進させ、今後の森林管理や山地保全について基礎的な知見を提供するものである


概要

宮崎大学 農学工学総合研究科 資源環境科学専攻 博士課程の陳 富嘉と、九州大学 大学院農学研究院の片山 歩美助教らの研究チームは、宮崎県と熊本県にまたがる九州脊梁山地における土壌侵食が、森林内の土壌微生物相を変化させていることを明らかにしました。
九州脊梁山地では、シカ等によって森林下層の植物が食べられ、地表面の土壌が流れ出る土壌侵食が起きている箇所がよく見られています。土壌微生物相(土壌内における微生物の集合)は、土壌中の有機物分解や植物との栄養受け渡しなどを通じて、森林生態系の物質循環などに重要な役割を果たしていますが、これまで森林内での土壌侵食がもたらす土壌微生物相の変化や土壌生態系への影響については分かっていませんでした。
宮崎大学と九州大学の合同研究チームは、宮崎県と熊本県にまたがる九州脊梁山地における土壌侵食が、森林内の土壌微生物相を変化させていることを明らかにしました。九州脊梁山地ではシカ等による食害で、一部の森林における下層の植物や地上の落ち葉などが無くなってきています。下層の植物や落ち葉が無くなると、地表土壌が雨滴に晒されたり凍結融解が起きたりすることで、土壌が斜面を流れていく土壌侵食が起きています。この土壌侵食によって、土壌中の有機物量の低下や土壌密度の上昇が起きることが知られていますが、土壌微生物相がそのプロセスの中でどのように変化しているのかや、どのような役目を果たしているのかについては分かっていませんでした。
本研究チームが九州山地の3ヶ所で土壌微生物相の網羅的な解析を行ったところ、土壌侵食により3ヶ所の森林で同じ様に微生物相が変化していることが分かりました。その変化に関係性のある微生物の群集組成や環境中の機能性を解析したところ、真菌類では植物と共生関係を持つ外生菌根菌(※1)の相対存在量が低下し、代わりに植物病原性や腐生性の真菌類(※2)の相対存在量が増加する方向であったことを明らかにしました。また原核生物については、貧栄養な環境中でも生育できる分類群や深い土壌で優占する分類群の割合が増加していました。この結果は、土壌侵食が起きた場所では今後植物が定着しづらい微生物相になっていることを示しており、定着ができないことによってさらに土壌侵食が起きるような負のスパイラルになっている可能性を示唆するものでした。
これらの研究成果は、全国で増加しているシカ等による食害がもたらす森林環境の変化や、その後の土壌侵食や森林荒廃に関する土壌生態系のメカニズムの理解を促進させ、今後の森林管理や山地保全についての基礎的な知見を提供しています。
本研究成果は、「Journal of Forest Research」誌に2023年10月10日に掲載されました。本研究チームは、今回得られた知見を基にして、森林土壌生態系の保全や山地保全について引き続き研究を進めています。

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図1 調査を実施した3つのエリアの概況(上段)。 下段は土壌侵食によってひどく根っこが露出している箇所。
撮影者:片山歩美(上段左)、陳富嘉(上段中央)、徳本雄史(上段右、下段)