「韓国のファーブル」石宙明の昆虫標本が農学研究院に現存していました。
~戦前の朝鮮半島の環境の推定・希少種の保全に期待~
ポイント
- 石宙明D.M. Seok(1908-1950)は、蝶類の分類学に貢献した韓国初の昆虫学者。
- 石は生涯を通じて75万個体の蝶の標本を収集しましたが、そのほとんどが朝鮮戦争等で焼失したとされていました。
- しかし、1930-40年代に石が朝鮮半島で採集した希少種を含む昆虫標本が九州大学に現存していることが分かり、日韓共同で調査を進めリストを作成して公表しました。
- 今回確認した標本をもとに、戦前の朝鮮半島の環境を推定し、希少種の保全を行うことが期待されます。
概要
韓国初の昆虫学者である石宙明の昆虫標本は、戦争等で焼失したとされていました。しかし、韓国国立生物資源館(代表:安能浩生物研究士)と九州大学(代表:廣渡俊哉特任教授)の共同調査により、石が1930-40年代に朝鮮半島で採集した昆虫標本35種129個体が九州大学大学院農学研究院に保管されていることが明らかとなりました。これらの標本は、日本の昆虫研究者(岡島銀次、江崎悌三、杉谷岩彦、柴谷篤弘など)と交流があった石本人が1930年代に九州大学に寄贈したものです。
その中には、韓国では済州島のみに分布する希少種ヒメシジミや、大型の寄生バチであるウマノオバチ、個体群が減少している草原性のチョウセンキバネツノトンボなどが含まれていました。このように戦前に朝鮮半島で採集された昆虫標本は韓国にはほとんど保管されておらず、当時の環境を知る上で重要なものです。石宙明の標本については、2024年9月に九州大学から韓国国立生物資源館に移管されました。また、石宙明の標本が多数見つかったということで、韓国では注目されて大々的に報道され、シンポジウムも開催されました。
なお、本研究成果は、韓国の学術誌「Journal of Species Research (JSR)」に2024年11月30日に公開されました。
廣渡 俊哉 特任教授からひとこと
九州大学では、石宙明が採集・寄贈した標本を90年以上保管していたことになりますが、韓国でまとめて管理・利用した方がよいと判断しました。韓国側の研究者は九州大学で熱心に調査を行って多くの石宙明標本を確認し、長年の標本管理に感謝するとともに、韓国に移管されたことを大変喜んでいます。これを機に、両国の共同研究がさらに進展することを祈念しています。
追記
2024年11月28日に、韓国国立生物資源館(仁川市)で、石宙明の標本が発見・移管されたことを記念して、韓国昆虫学会の年次大会で石宙明に関する特別シンポジウムが開催されました(4人の演者が講演)(資料1)。このシンポジウムで、廣渡特任教授が「1920-40年代に石宙明と関係のあった日本の昆虫学者」と題して講演しました(資料2)。
座長:Neung-Ho Ahn(安能浩)
Kim Chanmu 韓国国立生物資源館課長(寄贈標本と資源館収蔵庫について)
Toshiya Hirowatari 九州大学特任教授(石宙明と日本の昆虫学者)
Moon Manyong 全北大学教授(石宙明と韓国の分類学歴史)
Yoon Yongtaek 済州大学教授(韓国のルネサンス人石宙明)
(※かっこ内は発表内容)
論文情報
掲載誌:Journal of Species Research 13(4):404-416, 2024
タイトル:List of insect collection by Du-Myung Seok preserved at Kyushu University in Japan
著者名:Neung-Ho Ahn, Wanggyu Kim, Changmu Kim, Sadahisa Yagi, Jinhyeong Park, Satoshi Kamitani,Toshiharu Mita and Toshiya Hirowatari
DOI:10.12651/JSR.2024.13.4.404
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お問い合せ先
廣渡俊哉 特任教授